2002.11.16
「風よ。龍に届いているか」
復刊への長い長い裏話・前編

 「風よ。龍に届いているか」の復刊を記念して、著者であるベニー松山がその制作裏話を公開します。

                    ☆

 実のところ、今回の出版にあたっての入稿用テキストデータは、去年の初秋に完成していた。
 その時点では、原稿は3パートに分かれていた。
 つまり本書は当初、文庫での出版が予定されていたのである。
 予定、という言い方は語弊があるだろう。ゴーサインが出ていたからこそ、テキストをイチから見直す作業に入ったのである。これを出版社に送付したあとは、俺自身の作業はもう校正を待つばかり――そうなるはずであった。
 ところが、ここでストップがかかる。理由は、三分冊は出版リスクが高過ぎるというものだった。
「大変面白い作品だと思う。だけど、2/3の文章量に書き直してくれませんか」
 そんな要求がきた。
 そこで、文庫化の話は終わった。聞いたこともない条件であったし、何よりも明らかに、望まれている形での出版はできないものだったからだ。

 2002年の年明けまで引っ張った挙げ句の結論に、正直僕は文庫化を仕切り直す意欲を失った。
 実際のところ、「風よ。龍に届いているか」をそのまま出版できそうな文庫レーベルは、現在皆無に等しかった。ファンタジー系を扱う文庫は今や、シナリオをそのまま文章化した軽いものでなければ出せないというところまできている。つまりこのジャンルの取り扱いは、“小説”を出版する意図で作られた部署ではない編集部、という場合が大半なのである。
 海外ファンタジーの翻訳が多いH書房あたりが一番はまりそうか、とも考えたが、僕自身がそうやって過去の作品を出し直そうと動き回るよりは、新作を書いたほうが正しい時間の使い方のように思えた。
 そんな折り、これまでおつき合いのなかった創土社から連絡が入る。
 内容は「風よ〜」を、文庫ではなくハードカバーで出したい、というものだった。

 この“ハードカバー”すなわち“上製本”は、「風よ〜」において鬼門のような言葉である。
 この際だから言ってしまうが、最初の出版時、この作品はハードカバーで出されるはずであった。そのような束見本(内容が印刷されていない、本のページ数や紙質など体裁だけを確認するための見本)を見せられ、説明を受けていた。
 ところが、届いた実際の本は、ご存知の方はお判りの通りソフトカバーのペーパーバックタイプであった。僕自身この本のデザインは好みだった(出版社名が抜けていてシールを貼ったところや、編集長の手による裏表紙の誤植だらけのあらすじは別にして)が、とにかく騙し討ちのようなやり方が気に入らず、出版社との話し合いになった。
 結果、初版絶版と決まった。当時のやり取りでは、出してしまったばかりの現状では無理だが、一年後に最初の見本通りの形で出し直す、というようなことで決着した。ただしそんな本は現在に至るまで出ていない。
 このような経緯があったため、ハードカバーで復刊しようという創土社からのオファーは、僕にとっては魚の骨のように引っ掛かっていた過去を清算する願ってもないものであった。
 ただ、気がかりもあった。
 文庫ですら大出版社がリスク大と判断した作品である。まあ文庫でも三冊では詰め込みすぎたソフトカバー版(税抜き1165円)より高くはなってしまうのだが、上製本ではもっとコストがかかってしまうことは明白だろう。
 創土社は本気でやるつもりだろうか? 「風よ〜」のせいで大赤字を引いてもらってはたまらない。どこまでの覚悟があるのかを見極めたいと思った。
 そこで直接創土社を訪問し、まずはよくよく話を伺ってみることにした。
 するとどうやら、この復刊を企画した年若い編集者の酒井氏は、僕の本の熱心なファンであったらしい。古い自著の、僕自身が忘れているようなことまで覚えていてくれて冷や汗が出た。同時に、これほどの熱意をもってやってもらえるなら、お任せしてもいいと確信した。

 こうして新たな企画が立ち上がったのが、今年の2月のことだった。
 しかしながら。
 「風よ〜」の復刊の前にはまだ巨大な、決して避けて通れない難問が立ち塞がっていたのだった。

(後編に続く)



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